{ "dataList": [ { "id": 0, "content": "ガタガタいう鉄馬の中の空気はなかなかに重い。" }, { "id": 1, "content": "なんぴとも口を開かない。聾唖なのだろうか?いや、鉄馬に座る者たちは皆一人だ。\n彼らは誰も他人と絡もうともしない。隣も前も常にそうだ。" }, { "id": 2, "content": "ある方向より見つめると、\n彼らは唇を動かす力すらなさそうに見える。" }, { "id": 3, "content": "ただ肩を落とし、首も同じようにしたまま\n手にぶら下がった小さな道具を叩くか、ぼんやり眺めてばかりいる。" }, { "id": 4, "content": "私も彼らと変わらない。" }, { "id": 5, "content": "時々立ち止まりする、私の意志とは少しも似つかわしくない鉄馬の中で\nそして阿呆のような目つきで、前に座った人にも\n物体にも、どこにも定まらない視線で静かに座ってばかりいる。" }, { "id": 6, "content": "仕事を休んでからどれくらい経ったのだろうか。" }, { "id": 7, "content": "数えることには意味が無い。もしやすると数えられないやもしれない。" }, { "id": 8, "content": "会社は時間を奪い、記憶を奪うことに長けている。" }, { "id": 9, "content": "清掃係は彼らのサービスを利用していないと言っているが、欠片になった\n彼らの肉を組み立てていると、私も彼らのごとく壊れてから\nまたくっ付いた身かどうかは分からない立場であろう。" }, { "id": 10, "content": "もしやすると私は知らないまま、人の一生分よりも\n多くの労働をしたのかもしれない。これほどにまで身体が\n疲れているのをみるに、本当にそうなのかも。" }, { "id": 11, "content": "しかし、だからといって何の意味があるんだろうか。" }, { "id": 12, "content": "…私の人生はこの鉄馬とそう変わらない。" }, { "id": 13, "content": "私の両足で歩むことも、両手に操舵することもないまま\nただ群れに押されて動いていることが。" }, { "id": 14, "content": "自ら把握できないほどの疲労を持っていながらも、\n出勤と退勤を繰り返していることが。" }, { "id": 15, "content": "他の人が何をしたとしても勝手に止まって去って行く鉄馬のごとく、\n私が組み立て積み上げる肉がそもそも誰で、いかなる由で\nこの地獄のような列車に乗ったのか知りも、知ろうともしない私も。" }, { "id": 16, "content": "皆、似ているような気がする。" }, { "id": 17, "content": "そう思うと、あの列車もこの鉄馬もそう変わらない気がする。" }, { "id": 18, "content": "ふと感覚が覚醒する。腰に付けた短剣に自然と手がいく。\n私は、私が知らない間にあの列車の乗客になったのかもしれない。\nそれならば…。" }, { "id": 19, "model": "안내방송", "teller": "案内放送", "title": "???", "content": "…駅です。出口は…。" }, { "id": 20, "content": "鉄馬が止まり、人が乗降する。\n熱い息がふうと吐き出された。" }, { "id": 21, "content": "またうんざりする空想に囚われたのだろうか。\n冷えた肝はさらに深く落ち込み、疲労感の上に沈む。" }, { "id": 22, "content": "私は…。" }, { "id": 23, "content": "私の会社の描れたベースボールキャップを深く被り、席を立つ。\n出勤しに行く。" }, { "id": 24, "content": "その他に、選択肢は特にない。" }, { "id": 25, "content": "少なくとも半分の時間は新入りたちを教育することになるはずだ。\n肉を切りって積み上げるよりかは、心が疲弊することはないだろう。" }, { "id": 26, "content": "少しだが慰めができたことに安堵しつつ、\n私は鉄馬より列車に足を運ぶ。" }, { "id": 27, "content": "その歩みに意志がないということを改めて感じ、\n青臭い空笑いが私の口元に浮かぶ。" } ] }